斉藤環氏に見る俗流カルトバッシング論批判

 精神医学者(科学者)の斉藤環が、毎日新聞の時代の風において、「ホメオパシー」をめぐって、という論説を書いている。はてブもまたすごい。
 http://b.hatena.ne.jp/entry/mainichi.jp/select/opinion/jidainokaze/news/20101003ddm002070085000c.html
 
 この論説は、やはりニセ科学批判者によって批判されている。しかし、斉藤氏の主張は、単なる相対主義ではなく、文化相対主義と機能的等価主義を配合した高度な社会学的処方箋である。
 まず、医学的にはホメオパシーが偽薬効果以外はないと考えている側面は科学に準拠している。しかし、ここがポイントであるが、偽薬効果を肯定し、社会心理学的効用として自己承認欲求充足機能があると認めている。カルトについては、過激な文化的排除がカルト化をもたらすと指摘している。これは社会学的には正しい。社会が支持する価値観と反対する価値観を完全排除する恐ろしさを指摘している。
 実は、これは二重の意味で恐ろしい。一つは、迫害された者たちが過激化することである。斉藤氏はこれを指摘している。それとは別に、平和主義者である私は社会の支持する価値観を無反省に絶対化し、社会が逸脱者に暴力を加えるおそれを指摘しておきたい。社会による文化的排除による暴力現象で多くの人の命や精神が傷つけられて来た歴史を忘れてはなるまい。魔女狩りにその典型をみる。
 社会学では、文化的排除を扱う。ニセ科学批判者は、安易にカルトという言葉を使用し、他者の思想や技術にカルトのレッテルを貼り、社会的異常あるいは社会的逸脱として批判する。既存の社会的価値観から逸脱している反社会集団をカルトと呼ぶのなら、ローマ帝国内のキリスト教もカルトであったということになる。封建社会では、民主主義思想も自由主義思想もカルトであったことになる。中世ヨーロッパ社会では、科学者コペルニクスの地動説はカルト思想ということになる。
 このように、カルトという概念は、時代と地域ごとの社会に相関的な相対性のある概念であり、キリスト教、自由主義、マルクス主義、そして科学もカルトであったのであり、社会から集合的制裁=迫害を受けて来てたのである。
 
 科学が真理の王として君臨した現代社会では、科学に反する知識体系はカルト扱いされることになる。その尻馬にのっているのがニセ科学批判である。科学は自らが中世社会でカルトとして弾圧されてきたトラウマ記憶を忘れ、真理を主張する非科学的知識をバッシングするのである。
 社会が変われば、何がカルトであるかも変わるという社会学的真理を無視して、自らの立場が普遍的に正しく絶対的であると思い込み、自己に違和的な知識体験を文化的に排除するのである。ニセ科学批判や科学主義によるカルト批判は、文化的排除の一種である。

 社会学からすると、古代社会によるキリスト教弾圧や中世社会による科学者の弾圧と同じ社会的メカニズムで、ニセ科学批判が起こっているのである。人類は同じ過ちを繰り返してはならないのである。社会学のみがこの過ちに気づいているのである。
 こういうと、またニセ科学批判者が文化相対主義だと批判してきそうである。ところが、逆説的であるが、社会の秩序を支える知識体系や価値規範がそれに反する逸脱者に制裁を加えるという社会学的真理のみは、時代を通して不変であり、相対性を免れていることになるのである。そういう意味で、自然科学的真理よりも社会学的真理の方が普遍的で確かであるのではと思う次第である。

 既存の社会の価値観を疑うことなしに、社会が支持する通俗道徳に準拠して、他者批判を行うニセ科学批判者は社会に洗脳されており、基本的に保守的である。ニセ科学のビリーバーに対して信じるな疑えと言っているが、当のニセ科学批判者自体が通俗道徳のビリーバーなのである。ビリーバーという観点からは、目くそ鼻くそを笑う関係である。
 ニセ科学批判者は社会を疑わない人たちであり、自己の属する社会を疑い、相対化し、洞察を深める社会学の徒とはそこが決定的に異なる点である。

 斉藤氏は、菊池氏や後藤氏のように俗流カルトバッシングに走るのではなく、異なる価値観をもつ人たちを排除せず、役割分担させ、共存の道を探るという極めて社会学的には妥当な処方箋を示しているだけなのである。ニセ科学批判者たちがこの処方箋を理解できないのは、彼らが自己の所属する社会の支持する科学と通俗道徳を絶対化し、思考停止に陥っているからである。さらに、他の観点を受け入れず、また自己の観点のみが議論するに相応しいと絶対化するのも特徴である。斉藤氏が提示した観点を単なる相対主義と思うのは浅学の者なのである。

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by merca | 2010-10-11 12:13 | ニセ科学批判批判 | Comments(0)
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