竹内薫氏は、科学作家であり、多くの科学評論を手がけており、科学マニアのうちでは特異な位置をしめている。著書においては、「99.9%は仮説」「なぜ科学は「ウソ」をつくのか」「白い仮説 黒い仮説」という疑似科学批判やニセ科学批判に関わる本をだしており、自身の科学観を浮き彫りにしている。竹内氏の科学観をひとことで言うと、仮説主義科学論ということになる。つまり、全ての科学的知識は、仮説であり、いずれ反証される可能性をもつ相対的知識であるということである。
竹内氏は、菊池氏のように科学的知識を知識獲得方法によって定義するのではなく、仮説であることにそのアイデンティティを見いだしている。また、複数の矛盾対立する仮説が乱立することも肯定している。さらに、自己と異なる他者の仮説を理解したうえで、議論することの重要性を説く。極めて寛容である。 さらに、全ての科学的知識は仮説なわけであり、端的に言えば、科学はウソをつくという発想となる。従って、科学的知識は仮説であるにもかかわらず、それを事実とみなし、他人に押し付けることは、ウソを押し付けたことになる。科学的知識は仮説としての虚構なので、その虚構に基づいて他説を否定することはできないことになる。要するに、原理的に、仮説主義科学論は、ニセ科学批判の正当性そのものを否定することになる。これは、すでに一種のニセ科学批判批判である。 ちなみに、社会構成主義は、全ての科学的知識は科学的方法によって科学者集団によって人為的に構成されたものであり、相対的なものであると主張する。従って、仮説は科学者によって構成されたものであると考える仮説主義科学論も、究極的に社会構成主義と同一であり、原理主義的相対主義を本質とする。 ニセ科学批判者は相対主義を批判するが、当の科学が相対主義だったのかと思うと、自己矛盾的だと思った。 システム論社会学の観点からすると、竹内氏の仮説主義科学論は、科学が絶対主義を含んでいることを見落としているという誤謬をおかしている。科学が、真理あるいは事実は一つという観念を所有していることを見落としている。科学システムは、もともと真偽というコードに準拠しており、社会的には事実は一つであるという前提に基づいて進化・発展してきたのである。事実が複数あるのなら、そもそも科学的議論自体がありえず、知識の真偽の区別はつかず、科学の進化もあり得ない。 科学者は、正しい知識を求めて実験し、他の学者と議論することで、古い仮説を否定し、正しい仮説を真理として定立するのである。真理が複数あるのなら、古い仮説を否定する必要はなくなるのである。真理に近似している仮説が採用され、古い仮説は否定されるのである。観測や実験によって新しい仮説が採用され、古い仮説が否定されるのは、事実や真理が一つという観念が存在するからである。 その点を完全に無視して、仮説だから全て科学的知識はウソであるというのなら、ウソである点において科学も迷信と変わらなくなるのである。 相対主義者である私がこのような議論をするのはおかしなものであるが、真理が唯一性・絶対性(事実はひとつしかないという観念)をもつという科学観こそが正統であり、菊池氏に代表される過激派ニセ科学批判者こそが正統な西洋の自然科学の後継者なのである。科学純粋主義者からしたら、竹内氏は異端者である。異端審問にかかるおそれがある。 竹内氏の仮説主義的科学論からは、ニセ科学批判は成立たない。全てが仮説であり、真理や事実が複数あるのなら、究極的に知識の正当性は皆同一になるからである。ニセ科学批判者が嫌う悪しき相対主義の典型である。 これまでの科学的知識から演繹して水が人間の言葉に反応することはあり得ないとする菊池流の批判は、菊池氏が科学的知識を仮説ではなく、真理だと思っているからこそ、可能になる。これまでの科学的知識が仮説=ウソだと思っていたら、水伝を否定できなくなる。竹内氏の仮説主義的科学論からは、水伝、ホメオパシー、ゲーム脳も、全て批判できなくなるのである。仮説というウソでもってウソを否定することはできないからである。 竹内氏の仮説主義科学論に準拠すると、全ての科学的知識は、仮説として平等であり、否定すべきではないことになる。そして、科学は仮説であり、全て究極的にはウソである、ということになる。 これは、科学主義者によるニセ科学批判批判である。しかし、これは、より事実に一致した知識のみが真理だとする科学の理念に対する冒涜なのである。 竹内氏の仮説主義科学論は、正しく科学の理念である真理は一つという観念を含まないニセ科学である。 参考エントリー 科学の絶対性とは何か? 人気blogランキングの他ブログも知的に面白いですよ。 人気blogランキングへ
by merca
| 2010-11-21 10:15
| ニセ科学批判批判
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