偽薬効果を前提にしたニセ科学批判はニセ科学である。

 ニセ科学批判系ブロガーのうちで、ホメオパシー論争が過激化しているようである。その中でも、偽薬効果(プラセボ効果)のメカニズムについて少し興味をもったので、述べておこう。

 偽薬効果とは、偽薬であっても、本当に効く薬や治療法だと患者が思い込めば、一時的に本当に病気が改善するという効果である。心理学でいうピグマリオン効果や社会学でいう予言の自己成就と似ているのである。つまり、ウソが本当をつくりだす現象である。このような現象は、意味システムである心理現象や社会現象のみで可能であると考えていたが、生命体システムにも起こりうる現象であるというのが興味深い。
 言葉の意味内容が物質的世界たる身体に影響を与えるというのは、ある意味、神秘的であり、スピリチュアルである。言葉(意味付与作用)が物質世界たる身体に影響を与えるという因果関係を認めてしまえば、これまでの科学的知識を否定することになり、ニセ科学になっしまうのだろうか?
  多くのニセ科学批判者は、不思議なことに偽薬効果の存在は肯定している。ホメオパシーは偽薬効果しかないと否定することで、ホメオパシーの偽薬効果のみを暗に認めている。新薬開発に関しては、偽薬効果を除外した本当の効果を測定することが科学たる医学の世界では、常識であり、偽薬効果を否定するニセ科学批判者はいない。
 言葉の世界の出来事が身体現象に影響を与える偽薬効果という現象を認めることは、かえって非科学的ではないだろうか?偽薬効果のメカニズムに科学的根拠がないのなら、偽薬効果を認めることは非科学的である。科学的に完全に解明されていない偽薬効果こそが神秘的なのであり、その神秘的現象に基づいてホメオパシーを否定することで、かえって自らが非科学的になっているのである。
 ニセ科学批判者が、ホメオパシーは偽薬効果しかないとして批判することは、非科学的なことである。むしろ、ホメオパシーには、偽薬効果も治療効果もどちらもないという批判が純粋科学主義による批判なのである。ニセ科学批判者たちには、徹底せよと言いたい。
 
 さて、システム論では、意味システム(意識システム)が生命体システムに直接的に影響を与えることはできず、互いに閉じていると考えられている。従って、言葉の意味内容が生命体の活動に直接影響を与えることはできない。治ると念じたたところで病気は治らない。もしかりに、意味システムが生命体システムに影響を与えるとするならば、媒介的なかたちをとると考えられる。
 
 そこで、あくまでも仮説であるが、これまでの科学的知識の範囲内では、現状では、偽薬効果を以下のようにしか考えるしかない。
 それは、偽薬効果が、言葉の意味内容→感情的反応→神経系・ホルモン系の反応→自然治癒力の向上→症状の改善というプロセスからなるという仮説である。さらに、多少の改善の兆候の認識によって、さらなるプラスの感情的反応が起こり、それ以下の過程もプラスになっていくと考えられる。例えば、偽薬を使用して少し改善したところで、周囲の人たちが偽薬の効き目が出て来ていると、集合的評価をすることで、益々偽薬への信じ込みによるプラスの感情が起こり、症状が好転するのである。偽薬効果においては、このようなプラスの循環をつくる社会心理的過程が重要なのである。
 患者が偽薬単体を信じるということだけではなく、医療従事者たちの集合的な演出こそが大きなポイントだと思われる。みんながこの薬や治療法を信じている。少しよくなったことはみんながこの薬や治療法の効果だと思っている。そしてなによりも、みんなが私の病気が治るように願っていてくれるということで、プラスの感情を患者がもつことができ、それが自然治癒力を高めることになり、改善に向かう。
 偽薬を単独に取り出して分析するだけでは不十分で、偽薬を演出する治療共同体のコミュニケーション過程による患者の感情的反応の分析こそが必要なのである。偽薬効果には、このような社会心理過程が介在していることを忘れてはならないのである。
 もう一ついうと、科学的根拠によって効果が実証されているという情報こそが、偽薬効果で一番大切なことである。つまり、科学が真理の王様であり、科学的に実証されていることが信じるに値すると思っている多くの現代人には、科学的根拠があるという情報は絶大な偽薬効果をもつと予想される。科学者たる医者が効果があるとお墨付きを与えた薬なら、偽薬効果はそれだけ高まるのである。皮肉なことに、科学的根拠があると偽るニセ科学の偽薬ほど、偽薬効果は高くなるのである。ただ、科学を信じていない患者には、お守りなどのスピリチュアルなもののほうが偽薬効果はあると思われる。

 以上のような心理・身体過程は、まだ科学的に十分に解明されていないわけであり、仮説にしかすぎないが、この仮説でもって他者を批判すること、すなわち偽薬効果でもってニセ科学批判をすることは、非科学的である。時折、ニセ科学批判者は仮説を科学的真理と思い込み、他者を批判するので要注意である。

 さて、ニセ科学批判者には次のように考える者もいる。
 ホメオパシーは、希釈によって物理的に身体に影響を与える可能性がほとんどないので、物理的因果関係がなく、偽薬効果しかないが、一方、鍼灸、漢方薬、指圧などの東洋医学は、直接的に物理的身体に影響を与えており、科学的根拠が解明される余地があるので、偽薬効果だけではないというのである。従って、ホメオパシーと東洋医学を同列に扱ってはならないというわけである。
 科学的根拠が解明される余地は、物理的な直接的接触によって区別されるかどうかは、議論が起こることであろう。
 もし物理的な直接的接触のみが科学的である条件ならば、臨床心理学における心理療法などは非科学的だとして全て否定されることになるのである。鬱病は脳神経に影響を与える投薬のみが効果があり、心理療法は偽薬効果のみだということになる。偽薬効果のみを認めるニセ科学批判者は、心理屋を敵に回していることに気づいていないのである。
 身体現象に影響を与える心理的はたらきかけは、全て偽薬効果と同じメカニズム(因果経路)をもつということを臨床心理士たちに公言して欲しいものである。いずれ臨床心理学は、精神分析学と同様に、ニセ科学として魔女狩りされる運命にあるのである。その危機感をもつ臨床心理士はまだ少ない。精神病棟に多くの臨床心理士が勤務しているが、ニセ科学批判者によって、心理療法が偽薬効果として断罪され、精神科医による投薬治療のみが生き残るのである。
 
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by merca | 2011-01-23 12:22 | ニセ科学批判批判
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