被災者の視点「被災地の本当の話をしよう」書評

 東日本大震災によって東北の海岸沿いにある多くの市町村が壊滅状態になった。この事実は、マスコミによって報道され、そして多くの支援や励ましが日本全国や海外から届いた。
 陸前高田市もこの未曾有の大震災の津波被害によって、壊滅状態になったが、復興に向けて、同市の市長は、負けずに命を懸けている。陸前高田市の市長である戸羽太氏が、全国の人々に向けて、一つのメッセージを発した。それが、今回の「被災地の本当の話をしよう」という新書である。
 戸羽氏は妻と自宅を亡くした被災者である。つまり、同著では、被災者自身の視点から、被災地の現状が語られているのである。マスコミ報道は外的な視点に立ち客観的な事実を伝えるが、同著を読むことで、被災者自身から震災がどんな意味を持ち、さらに被災に対する支援がどのような役目をもっているのか克明に理解することができる。被災者の気持ちが伝わってくる。
 
 その中で、もっとも印象が深かったのは、戸羽市長が日本全国や海外からの支援や励ましに対する被災者の気持ちを語っている部分である。市長によれば、震災による辛い日々を耐えてきたことができたのは、日本全国や海外からの支援や励ましによって、一人じゃないんだという実感がもてたことであり、そのことを恩に感じており、それを忘れてはならないという気持ちがあるというのである。 多くの心ある人たちからの支援やメッセージは、このように被災者の復興のエネルギーの一部になっているのである。また、どの国が、また誰が支援してくれたかを忘れてはならないということで、支援者の個別性にも気を配っている。感謝という行為は、支援者一般ではなく、そのそれぞれ性に対して向けられることが大切だとわかっているのである。励ましが寄せ書きのかたちで送られてくるのは、それぞれ性を感じることができるためである。日本全国や海外のそれぞれの人たちとつながっているという感覚を感じることができることが大切なのである。宇宙が無限だと感じるのは、それぞれの無数の星が輝いているからである。無限の基礎は、画一的な全体性ではなく、唯一のぞれぞれ性、無数性にある。
 
 ともあれ、ここでも他者論的な倫理的関係が創発されているのである。マスコミを通じて困っている人々の存在を知り、自発的にそれを支援したいと思う人々が、支援し、そして、支援を受ける側もそのそれぞれの支援に感謝を感じるわけである。もしも支援に対する被災者の感謝に倫理や美しさを見ることができない者がいたとすると、それこそ真のニヒリストである。

人気blogランキングの他ブログも知的に面白いですよ。
人気blogランキングへ
   
[PR]
by merca | 2011-09-04 01:26 | Comments(0)
<< 世界とは何か? 生物多様性は自然の摂理 思想多... >>