「若者の労働と生活世界」という本が出た。教育社会学者・本田由紀が多くの若手社会学者を集めて編纂した学術書である。これは、社会病理学の本道を行く書物である。
特に、注目すべきは、ホームレス支援のNPOを運営する湯浅誠である。この人物、ワーキングプアという社会病理現象を正しく把握している。大きな社会の流れと、個々のワーキングプアの因果連関を記述している。二つの神話がある。 右翼の神話・・・就労意欲がないからホームレスになる。(自己責任論) 左翼の神話・・・仕事がないからホームレスになる。 この二つの対立する物語が科学的根拠のないまま流布し、マスコミや政府の政策に影響を与えている。湯浅氏は、この対立する二つの物語では現実のワーキングプア問題を捉えきれないと指摘する。要約すると、就労意欲はあるが自己の限界を設定し、仕事をやめてしまうというパターンを把握できないというのである。さらに、この「意欲の貧困」は、溜めの貧困に起因しているという。溜めとは、本人を支える社会的資源(貯金、親戚、人間関係、家族、資格、学歴等)である。この仕事をやっていけるという根拠の無い自信は、溜めによって支えれているという。 マクロな社会変動によって企業と家族による保護が弱体化した社会では、企業と家族の溜めがなくなり、公的福祉に援助を求めてくるが、福祉は十分に機能していない。 以前、私は個人の所属する中間集団の弱体化を指摘したが,いずれにしろ、溜め、つまり社会学でいうところの「資源」(経済的、教育的、人間関係的、法律的など)の最低限を保証していくということろがポイントだと考えられる。 この場合、個人心理に目を向け,意欲の貧困を臨床心理学で解決しようとする視点こそが一番怖いのであり、警戒せぬばならない。
by merca
| 2007-07-16 08:41
| 社会分析
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