統計学的パニック現象

 マクロな社会統計調査で統計的に有意な相関関係や因果関係が見い出され、一つの社会法則が発見されたとしても、それは個々の個別的現象の因果関係に妥当するとは限らない。個別事象の因果関係は、動機や目的を調査対象から聞き取り、因果関係を記述する他ない。つまり、臨床的方法で調査するわけである。
 例えば、「貧困な生活状況になると、そうでないよりも、財産犯を起す」という統計調査結果が出たとする。貧困と財産犯の関係に相関関係が統計上見い出されたとしても、貧困な人が貧困なために窃盗するとは限らない。実際に、犯罪者から動機を聞き取り、生活状況を調査し、総合的に判断してはじめて犯罪に至った個別事象の因果関係は判明する。貧困者であっても、貧困が動機ではなく、悪友から誘われて断わりきれず、窃盗を犯す人間もいると考えられる。
 また、例えば、統計上、親の離婚と少年非行の間に相関関係があったとしても、個別の事例がこれに該当するわけではない。親が離婚したら、必ず子供は非行に走ると限らないし、離婚が原因でなくて非行に走る場合もある。
 統計的因果関係は、ある一定の条件や属性があると、ある一定の状態を引き起こす事例が多いということしか意味しない。この多さがこそが統計の本質であり、実際の個別事象の因果関係とは本来無縁である。
 このように、統計的因果関係を無条件に個別現象に適用する誤謬を統計的一般化という。統計的一般化は差別や偏見につながりやすい。というよりか、ほとんどの社会的差別は原初的には統計的一般化に基づいている。ある集団や文化圏に属する人々の多くが特定の特徴や行動様式を所有していると観察すると、人はその集団に属する人々全てが同じような特徴や行動様式を所有すると思考するわけである。社会的差別や戦争は、このような統計的一般化という思考の誤謬に基づいている。
 貧困が犯罪をつくるという統計的知見を打ち出している犯罪学者たちがいるが、貧困者は泥棒になるという統計的一般化が生じ、よけいに貧困者が社会から排除されるという予言の自己成就をもたらすのである。このような社会病理現象をモラルパニックと並んで、統計学的パニックと呼びたい。統計的に多いことが絶対化され、個別的現象や個人の人権が侵害されるという差別的社会現象である。
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by merca | 2007-08-11 11:00 | 社会分析
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