質的調査と統計調査


 社会学の方法は、社会調査法と呼ばれる。しかし、社会調査法イコール統計調査と勘違いしている人もいる。実は、社会調査法には、参与観察者法やインタビュー法等の質的調査も含まれる。サンプル数は少ないが、先行研究を参考にして、典型的事例をとりあげて面接・聞取り調査をする。ラベリング論で有名なベッカーなども、この質的調査を行い、理論構築した。質的調査は、臨床の世界とも近い。調査対象に直接的にアプローチできる点が利点である。
 実は、アンケート用紙による統計調査を企画する場合、質問項目の設定などは、先行研究や質的調査の結果を参考にして作成される。

 情報源たる調査対象に直接的に関わり、内面を調査するのは、質的調査の役割である。その知見を一般化しうるかどうかを、母集団から抽出された標本集団に対して質問紙をつくって統計調査(計量調査)を実施して検証する。

 質的調査は、対象に直接的に接する一次的情報であるのに対して、統計調査は数学によって加工を施された二次的情報である。直接的なリアリティは質的調査によって暴かれるのであり、統計調査は知見の一般化を目指す手段となる。
 ちなみに、統計調査の擬似相関関係問題などは、質的調査の知見で暴露されることが多い。

 先行研究による統計資料だけから、一つの仮説を構築するような議論がネットでは見受けられるが、実際に調査対象に接することなしには、事実はわからないのである。調査対象から直接に面接調査することなしに、ひきこもり・ニート・いじめ・非行・貧困などを論じても、事実かどうかはわからない。当事者を調査しなければ本当のことはわからないのである。
 
[PR]
by merca | 2007-09-30 13:35 | 理論 | Comments(3)
Commented by dankkochiku at 2007-10-04 16:03
久しぶりにお邪魔します。 偶然の一致か当方もラべリング論でしたので、立ち寄りました。
 さて、当事者を調査しても本当のことが分らないのが犯罪者です。 犯行中の者は所在不明で分りません。 検挙された者の中には相当数の嫌疑なく不起訴者がいます。 受刑者は、まぎれもない犯罪者ですが、裁判で有罪確定者の中の3%ほどの人数で、犯罪者を代表する標本かどうか分かりません。 それに拘禁による心身への影響を受けている人たちです。 犯罪心理学は受刑者心理学と言うべきでしょうか。
Commented by 論宅 at 2007-10-04 22:02 x
 コメントありがとうございます。dankkochiku さんや山人さんなどからコメントがあればほっとします。長い間、ニセ科学批判論争に巻き込まれていました。軌道修正です。
 さて、質的調査で個々の犯罪者独自の再犯条件はわかると思います。例えば、店で飲酒すれば必ず傷害事件を起す累犯障害者とか。犯罪者処遇という側面からは、個々の犯罪者特有の動機や再犯条件を面接や過去の資料で特定してやり、その除去に努めるのが適当かと思われます。個別事例の臨床的知見なしに、統計的知見だけでは、犯罪者処遇には役立たないと思います。ある家裁調査官も少年の処遇にほとんど統計的知見は役に立たないと言ってました。実在するのは、犯罪一般ではなく、個々の犯罪です。帰納法的方法ですが、むしろ個々の事例の寄せ集めから、一般的知見も出来上がります。犯罪性の高低という尺度からすると、不起訴や初犯は犯罪性が低く、累犯は犯罪性が高いということですね。尺度化すれば、刑務所受刑者は犯罪性が高く、その分、代表性はあると思われます。犯罪性の定義の問題ですね。
 統計的知見と臨床的知見の相違については、反社会学講座の盲点になりますので、エントリーしたいと思います。
Commented by telomere at 2014-03-04 15:13 x
①この記事での「統計調査」というのはマクロデータ、それともミクロデータですかね?「アンケート用紙による統計調査」というところはミクロデータのようですが、後半部に「当事者を調査しなければ本当のことはわからない」というとこでは官公庁統計などのマクロデータのようにも読めます。細かい点ですが、この二つが混ざると当事者云々の話が変になってくるので確認です。

そのうえでなのですが、
②>「統計調査の擬似相関関係問題などは、質的調査の知見で暴露されることが多い」
疑似相関の検証(変数の統制)は、計量分析ならではの醍醐味という認識でいたのですが、質的分析にも計量分析以上に効果的な方法があるということなのでしょうか?(ブール代数分析は思いつきますが、他にあったら教えてください)

③>先行研究による統計資料だけから~実際に調査対象に接することなしには、事実はわからないのである。

これはリサーチクエスチョンに拠りませんかね。たとえば「ニートのなりやすさに対する本人の学歴の効果は、出身階層をコントロールしてもなお残るのか?」という問いであれば、やはり大規模調査票調査の計量分析が向いているように思います。
<< 認識とレッテルの相違 ニセ社会学批判 >>