これまでニセ科学批判に関する記事を書いて来たが、ニセ科学批判者や科学主義者がなぜかくも相対主義を嫌うのかという根本的理由について考察を加えたい。情報学ブログさんがやはり相対主義と科学主義の問題を提起している。相対主義を嫌悪する感情的反応の根本となる科学主義者の思考枠組みを解明したい。
参考···ブログ記事 情報学ブログ 「ネットに蔓延する科学教を考える」 http://informatics.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-1933.html まず、相対主義者というと、私も含め、色々な思想的立場の人たちが含まれる。社会構成主義、構造構成主義、ニーチェ主義、脱構築論、弁証法、そしてシステム論である。 私は、ラディカル社会構成主義者であり、もとっも過激な相対主義の立場をとる。ちなみに、基本的に、社会学は相対主義である。絶対主義者の社会学者を見たことはない。そういう意味で、常に社会学は科学主義と対立する。ネット論客では、情報学ブログさん、ポストヒューマンさん、on the groundさんなども典型的な相対主義者の系譜に属する。 とにかく、これらを一括してポストモダン思想と称するのには抵抗があるが、科学主義者は同じ仲間だと見なしている。 これらの相対主義的な論者が、正しさにおいて、科学的知識やその方法を、宗教、占い、迷信などの非科学的な知識と同列に扱うと途端に怒りだすことになる。過度の相対化やメタな視点だと言って嫌がり、科学的知識のみを正しい知識=客観的事実として特権化=絶対化しようとする。 一方、科学を特権化し他の知識や信仰を排除する科学主義者やニセ科学批判者に対し、我々相対主義者はある種の違和感を抱くのである。その違和感とは、正しさ=事実は社会的に構成された限定的で相対的なものにしかすぎないのに、その相対的なものを絶対化している違和感である。相対的なものの絶対化という誤謬を感じる訳である。相対的であるにもかかわらず、躊躇せず他説を否定する絶対性が怖いのである。 しかし、科学主義者が科学的知識を他の知識から特権化してしまう理由は、科学主義者が科学を単なる人間の「多数ある認識枠組みの一つ」を越えていると思っているからである。要するに、科学は、人間のコミュニケーションの外にある自然から付与された知識であると思っているからである。実験を通じて、人間のコミュニケーションとは関係なく存在する自然からの反応を観察·記述して得た知識であると確信しているのである。 具体的にいうと、科学的知識は、相対主義的な人間の世界を越えた絶対的な自然そのものを実験という手法で取り込んだものであり、社会的に規定された他の知識とは階層が異なるというのである。自然から与えられ、それを写し取った知識であり、人為の構成を越えているというのである。私は、過去に、このような知識の正しさの感覚を物理的リアリティと呼んでおいた。 人為を越えた、構成されざるものは存在しないと見なすのが、構造構成主義などの構成主義の立場である。しかし、実は、私は構成されざるものは存在すると考えている。ラディカルに構成主義を突き詰めると、かえって構成されざるものを想定しないと、構成主義そのものが成立たなくなるからである。 システム論でも、コミュニケーションの外=世界そのもの=無限の複雑性があると考えている。ただし、それはかえって神秘的なものとなり、正しさという観念とは無縁である。宇宙=自然そのものは、本来、理性にとっては不可知であるからである。 実験=人為を越えた自然から与えられた知識=正しいという科学主義者の飛躍的思考には要注意である。対象と認識が一致しているかどうかは、究極的には確かめることはできず、科学でいう正しさとは人為的に構成された正しさであり、合意的な正しさである。これを無条件的な正しさ=客観的事実とはき違える論客が、科学原理主義者と呼んで相応しい人たちである。確かに実験は自然からの反応であると言えるが、それと正しさは別問題である。 また、客観的事実なるものがあらかじめ存在し、それに照らし合わせれば、科学の立場から認識枠組みが異なる非科学的知識も否定できると考えるのも、科学主義者がもつ典型的な錯覚である。真理の対応説を非科学的な知識体系はとらないからである。 さらに、科学にはもう一つの隠された正しさの構成についてのトリックがある。カントの言うように、本質的に理性にとって自然は不可知である。この不可知な自然=宇宙そのものに対して、それが斉一性をもつことを無根拠に前提=信仰することで、科学的知識は絶対性を確保しようとする。例えば、斉一性とは、宇宙に存在する全ての水は条件が同じならば熱すると蒸発して気化するのであって、個々の水分子ごとに個性があり個別的に気化しない現象は起こりえないということである。斉一性とは、金太郎飴の宇宙観である。「自然は斉一性をもつ。」を前提とすることで、科学は普遍的知識として構成されるのである。 ちなみに、カントの理性のアンチノミーである「世界は必然か偶然か」という命題において、世界は必然であるという判断に科学の前提である「自然は斉一性をもつ。」という判断は対応する。ご存知のとおり、哲学的には、これは理性の能力を越えた越権行為であり、独断的判断であり、信仰にしかすぎない。 とにかく、「自然は斉一性をもつ。」という無根拠な独断論的前提を共有し、実験によって自然からの反応を観察·記述し、統計的推論をもって自然の法則性を定立することで、正しさを人為的に構成するのが、科学の正体である。このように、科学は自然の反応を取り入れるものの、人為を離れた純粋な正しさではないことがわかる。 科学的知識が構成された正しさであるにもかかわらず、純粋な客観的事実であると信仰し、非科学的な他説を批判するのが、科学主義に基づくニセ科学批判者である。 もし科学教というのなら、その崇拝対象は物理宇宙たる自然であり、教義は「自然は斉一性をもつ」と「実験は自然からのメッセージ」の二つになるのである。そして、科学者が発見した自然法則は自然からのメッセージを記した聖書となるのである。科学者は自然という神からのメッセージを人に伝える預言者である。そして、本当の自然からのメッセージを与えられた学説を巡って科学内の異端審問が始まる。ニセ科学批判は、魔女狩りに相当する。 ちなみに、自然を科学以外の仕方で感得することも可能である。感覚や直感や本能で自然を知ることもできるのである。生きていることそれ自体が自然と関わっていることであるし、そもそも我々も自然の一部であるからである。 ただし、客観的正しさという余分な西洋的観念が付け加わっているのは科学だけである。この正しさの観念が、科学による異端審問とニセ科学批判という暴力の本質である。 相対主義は、多神教であり、寛容であり、平和をもたらす使者である。 人気blogランキングの他ブログも知的に面白いですよ。 人気blogランキングへ
by merca
| 2010-08-29 11:08
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