科学は、偶然を必然にする理性の運動であると定義することができる。つまり、あらゆる現象=出来事について、因果関係を確定し、一般化できる因果法則を見つけだし、世界を必然として捉えることである。それは、物理的現象だけではなく、心理的現象、社会的現象など、あらゆる分野の現象を因果関係で説明しようとするわけである。因果関係で説明がつくということは、必然ということになるのである。人類が進歩するに従って、未知の現象も、科学的理性によって記述され、必然化されていくわけである。
科学的根拠があるというのは、科学が発見した因果法則に基づいているということを意味している。いずれにしろ、科学は、(必然/偶然)という区別に準拠しているわけである。さらに、必然は規定性、偶然は未規定性と言い換えることができる。科学は、未規定な現象を規定して因果法則のもとに加工していくのである。科学的真理とは、科学によってつくられた構築物なのである。その構造の形式が因果図式である。 そして、理屈の上では、世界の未規定な領域がなくなると、科学という理性の運動は自己消滅する。しかし、それは世界が有限であると前提したときのみの場合である。世界が無限であるのなら、科学という運動は永遠の命を得ることになる。科学を絶対化・永遠化するためには、かえって世界が無限であるという信仰が必要であるのである。世界の根源的未規定性とは、世界が無限であるという信仰のことであり、実は、科学と宗教の二つに地平・前提を与えるのである。 さて、逆に現象=出来事に対して偶然という態度で接した時、どのようなことになるのか?偶然に対しては、信じるしかない。あるいは祈るしかない。別の言い方をすると、願望や不安を投射するしかなく、我々はそれを物語と呼んでいる。そして、物語の中でも多くの人ひどに共有された場合、宗教や思想となる。ウェーバーの苦難の神議論がこれである。予期せぬ天災・事故などで不幸を被った際に、人ひどは神が与えた試練として解釈し、世界の不条理性を免れる。宗教は偶然の不幸を処理する機能をもつ。 ここまでは、二分法に従って論じてきた。しかし、二分法的思考では限界がある。そこで、弁証法的思考に準拠して論じたい。(必然/偶然)というコードそれ自体の止揚として、自由意思というものがある。自由意思は、必然と偶然の二つの要素をもっている。自由意思とは、自分の思い通りに環境を変えることである。自由意思そのものは、他のものに拘束されない点において偶然であるが、他のものを変える原因となるわけだから必然でもある。 かくして、必然と偶然、科学と宗教は、人間の自由意思によって止揚されるのである。というよりも、事態は逆であり、人間の自由意思が科学と宗教をつくりだしたのである。人びとは、偶然に対しては物語=宗教を、必然に対しては科学をあてがうのである。 複数の自由意思とのせめぎ合いで、社会は自然創発するが、実は、社会も自由意志や自律性をもっているため、科学的因果法則の外にあり、法則は成り立たないばかりか、人びとの共同主観的な物語の外にもあることになる。社会を一つの自由意志をもつシステムとして捉えると、必然と偶然を止揚した新しい社会観が誕生するだろう。 ルーマンの社会システム論は二元コードだけで記述されていたが、弁証法的原理によってあらたなシステム社会学を創発できるかもしれない。
by merca
| 2007-01-07 23:20
| 理論
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