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再参入の形式

 二項区別の片方の項に別の二項区別を代入することを再参入という。
 例えば、文化人類学でよく使われる(文化/自然)という二項区別の文化の項に、(男/女)という項を代入してみると、(文化=(男/女)/自然)というかたちで表すことができる。これは、男性のほうが文化のほうに位置し、女性のほうが自然に位置することを意味する。つまり、男性=文化、女性=自然という対応を表している。もちろん、男女の区別は文化によってつくられた差別的ジェンダーにしかすぎないが、文化そのものが自己と外部との境界を自己の内部に刻み込み、境界を維持しようとするわけである。

 このようなかたちで、自己と外部との境界を自己の内部に別の区別によって書込むことを再参入という。それでは、再参入が可能になる条件を考えてみたい。
 
 一つは、片方の項が無限定である場合である。(文化/自然)という項をとってみれば、文化は人間がつくったものであるという定義になるが、自然は人間がつくったもの以外の全てのものということになり、無限定である。自然には、物質や植物や動物や色々なものが含まれている。文化以外のものであるといういうだけでは、消極的定義であり、限定されえない。外部が無限定であると、外部と内部の境界が曖昧になり、内部も保てない。そこで、内外の区別を象徴するような別の区別を内部に持ち込み、内外の区別を明確化しようとする。先の例で言うと、子供の出産・育児は女性であり、規範を教えるのは男性であるという性的役割分業が成立っている社会では、(男/女)という区別が(文化/自然)を象徴するものとして機能することになる。
 ちなみに、対称的な区別の場合は、再参入の必要はない。自己以外の否定として自己を定義できるからである。例えば、(勝/負)というのは対称的区別であり、相手が負けなら自己が勝ちになり、その逆も真となる。しかし、非対称な区別の場合は、片方が無限定となり、一見自己が定義されているように見えても、他方が無限定であるために自己は最終的に定義されず、境界は不安定になる。非対称な区別としては、(自/他)という区別があげられる。他の否定は自己にならない。他と言っても、自己の外には無数の他者がいるからである。どの他者の否定を意味するのか無限定である。また、同じく、自己の否定も他者を定義したことにならない。従って、対称的区別で自己を定義することで、自己は仮に境界維持でき、安定する。
 
 もう一つは、自己言及のパラドックスを隠蔽する必要が出たときである。自己言及のパラドックスとは、自己が準拠する区別それ自体に同じ区別を自己適用することで起る矛盾である。(文化/自然)の区別それ自体は、文化なのか自然なのかと問われると、矛盾に陥る。区別自体が文化であっても自然であっても矛盾を起し、成立たない。そのような根源的矛盾を覆い隠すために、一時的に再参入という手を使い、境界を保持するわけである。

 まとめると、非対称的区別であること、自己言及のパラドックスを隠蔽する必要があること、この二点が再参入の条件である。

 
by merca | 2007-04-08 09:46
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