社会学者マックス・ヴェーバーは、近代化を合理化の過程であると喝破した。合理性あるいは合理主義とは、目的にとって最短の手段を選択するということである。近代社会においては、合理主義は、社会規範としても機能していることを述べておきたい。
つまり、合理的に説明がつく現象や行為しか認めてはならないという社会規範である。合理的に説明がつかない現象や行為は、排除されるという規範である。 例えば、ひと昔前には、丸狩りを男子生徒に強制する校則をもつ中学校があった。このような規則に対して、生徒や父兄たちは合理性がないと批判し、廃止を求めた。学校の風紀が乱れるという以外に説明しない学校は負けた。自分達が合理的に納得できない風習や規則に対しては受け入れるべきではないという市民的な道徳規範の勝利である。 ちなみに、一方でプロ教師の会のように、どんな内容の規則であれ、規則それ自体に従うことが教育的効果があると考える立場もある。彼等は、人間にとって思い通りにならない不合理なことは世の中にいくらでも存在し、甘んじてそれを受けいれ、妥協する忍耐力こそが組織社会で生きていくために必要な社会的能力だと考えたわけである。 プロ教師の会のこの立場は、一見、合理主義ではないように見えるが、実は合理主義の変種である。教育システムの目的に準拠したシステム合理性というものである。別名、社会学的啓蒙という。それに対して、校則の内容に関して非合理的で無意味であると観察する立場は、当事者による第一次観察であり、理性的啓蒙と言える。この二つの合理性のうち、理性的啓蒙にのみとどまって現象や行為を観察する時代は終焉したというのがポストモダン社会論である。社会学者マックス・ヴェーバーは、主意主義的立場から、行為の当事者の主観的意味を観察しており、近代社会における理性的啓蒙に焦点をあてたと言える。それはそれで価値がある。後期近代化社会では、単純な理性的啓蒙だけでは、不十分とするのが、システム論者であるルーマンなどの立場である。観察の観察である第2次観察を武器とし、その事象や行為にまつわるコミュニケーションをシステムの中で位置付けようとした。内容的には非合理な人々の行為も、システム論的観点からは十分に合理性を見い出すことも可能なのである。例えば、ニセ科学という内容的に非合理なものも、別の観点からは合理的であることは十分にあり得るのである。どちらのレベルの合理性を重視するかで、その人物が理性的啓蒙主義者か社会学的啓蒙主義者か選別できるのである。 参考 自己言及のパラドックス 「合理主義は、非合理である。」 合理主義そのものに(合理性/非合理性)という区別を自己適用すると、たちまち合理主義はパラドックスを抱え、成立たなくなる。合理主義が本質的に前提とする目的-手段図式そのものが、手段であっても目的であっても、合理性は矛盾するからである。このようなパラドックスを回避・隠蔽するためには、別の区別で合理主義を観察する必要がある。それが社会学的啓蒙の立場である。
by merca
| 2008-02-24 12:30
| 理論
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